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胃がん

胃がんの特徴

厚生労働省が2024年9月に公表した「2023年の人口動態統計」によると、胃がんは部位別がん死亡数で男性では3️番目、女性では5番目のがんとなっています。
胃がんは、胃粘膜の細胞ががん化して発生します。粘膜から発生した胃がんは時間経過とともに、胃の内腔側に増殖するだけでなく、粘膜の下側にも根を張るように増殖していきます。
胃がんが粘膜層、もしくはその下の粘膜下層に留まっている段階を「早期胃がん」といいます。
胃がんが更に深く浸潤し、筋層にまで及ぶと「進行胃がん」となります。
病変は徐々に進展し、リンパ節や肝臓など他の臓器に転移することがあります。また、がん細胞がお腹の中へひろがる(播種・がん性腹膜炎)場合や、膵臓や大腸など隣接する臓器に浸潤しながら進展していくこともあります。

胃がんは早期だと症状が見られません

胃がんが進行して大きくなるとみぞおちの痛みや胸焼け、吐き気、食欲不振、体重減少などの症状が出てきますが、早期の段階では自覚症状はほとんどありません。
早期に発見すれば、身体への負担が少ない内視鏡治療で根治できる可能性も高いため、胃カメラを受けたことがない方や、最近受けておられなかった方、血縁の方に胃がんの方がいらっしゃる方は是非一度内視鏡検査を受けて頂くことをおすすめします。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染を指摘された方は定期的な胃カメラを受けて頂くことをおすすめします。

胃がんが生じる原因

胃がんのリスク要因としてはヘリコバクター・ピロリ菌感染、喫煙、塩分の多い食事などが挙げられます。
特に、ヘリコバクター・ピロリ菌感染は胃がんとの関係が深いと考えられており、日本の統計調査によると、胃がんの99%はピロリ菌に関連して起こっているとされています。
また、WHOの報告によると、世界的にも胃がんの80%がピロリ菌感染に関連しておこっていると報告されています。
若いうちに除菌治療を行うことで、胃がんのリスクを大幅に低減できるとする報告もあります。

スキルス胃がんの特徴

通常の胃がんは、胃粘膜から発生し、塊を形成しながら進展していくことが一般的です。一方で、「スキルス胃がん」は特殊な進展様式をとり、胃粘膜で塊を作らず、まるで種をまくようにパラパラとがん細胞が広がることが特徴です。
また、非常に進行が速く、内視鏡検査で観察できる粘膜の表面には明確な異常が出にくいため、早期発見が難しいという側面があります。
そのため、診断時にはすでにかなり進行していることが多いのが特徴です。
さらに、スキルス胃がんは若年層(20代)でも発症することがあることも、特徴的です。
スキルス胃がんの原因として、遺伝的要因・食事(塩分の多い食事)・喫煙・過度の飲酒などが考えられていますが、ピロリ菌感染の関与が疑われることもあります。

胃がんの検査・診断

胃がんの診断において、胃カメラ検査は極めて重要です。
診察時に胃がんを含む上部消化管の疾患が疑われる場合、適切な検査を行い、診断を確定します。

胃カメラ検査

胃がんの診断において、胃カメラ検査は極めて重要です。
診察時に胃がんを含む上部消化管の疾患が疑われる場合、適切な検査を行い、診断を確定します。
胃カメラ検査は、胃粘膜の状態を直接観察し、病変の有無を詳細に評価出来るため、症状が出にくい早期胃がんの発見にも役立ちます。
胃がんの診断確定には、病理組織検査が必要です。病理組織検査も胃カメラで行います。
X線検査(バリウム検査)は不快感が少ない検査とされていますが、バリウム検査で異常が見つかった場合には結局胃カメラをして診断をつける必要が出てきますし、造影剤やX線被爆のリスクにも考慮して、当院では初めから胃カメラ検査を推奨しております。
当院では、通常の白色光観察に加え、必要に応じて「狭帯域光観察」という粘膜の血管や構造を強調して観察出来る観察法や内視鏡のズーム機能を活用した「拡大観察」も併用しながら、詳細に胃粘膜の観察を行います。食道や十二指腸も同時に検査します。

血液検査

胃がんの診断には血液検査の有用性は限られます。
ただし、胃がんに伴う貧血の有無や、消化管出血の可能性を評価するため、また全身の状態を把握する目的が実施されることがあり、胃カメラと併用されることも多いです。
胃がんの腫瘍マーカー検査としてはCEA,CA19-9,CA125,AFPなどが知られています。
しかし、特に早期胃がんでは腫瘍マーカーの変化が見られないことが多いため、診断の決め手とはならず、あくまで参考程度に留まります。

CT検査

リンパ節転移や他の臓器への可能性が疑われる胃がんの場合、胃がんの全身への広がりを評価するために行われる検査です。一般的に、造影剤を用いたCT検査(造影CT)が実施されることが多いです。
全身を精密に調べることで胃がんの全身への広がりが推定出来るので、ステージ分類が可能となります。ステージ分類の結果に基づいて、治療方針が決定されるため、非常に重要な検査です。

病理検査

内視鏡検査では、内視鏡の先端から鉗子を出し、病変組織の一部を摘出することができます。(この処置を「生検」といいます。) 得られた組織を処理し、薄い切片を作成して顕微鏡で精査する検査を「病理検査」といいます。
病理検査は胃がんの確定診断に必要であり、非常に重要な検査です。
胃粘膜には痛覚神経が存在しないため、生検時に痛みを感じることはありません。そのため、安心して検査を受けていただければと思います。

胃がんの治療方法

胃がんの治療法は近年、特に心身への負担が少ない低侵襲手術や分子標的治療の分野で大きな進歩を遂げています。
早期の胃がんであれば、内視鏡治療(胃カメラを用いて胃がんを切除する治療方法)での治癒切除が可能なことが多くなってきました。内視鏡治療は身体への負担が少なく、身体の回復も早いことが特徴です。
しかし、進行胃がんに至ってしまうと、外科手術や抗がん剤治療が必要となり、心身への負担が大きく、治療期間も長くなる傾向があります。
進行胃がんが診断された場合、適切な治療方法を決定するために「ステージ(病期)」を評価することが重要です。そのためにCT検査(多くの場合は造影CT検査)などを用いて全身の精査を行い、ステージを推定した上で、最適な治療を選択します。
当院の胃カメラ検査で胃がんが発見された場合には、連携医療機関へご紹介させて頂きます。

胃がんの治療方法は大きく分けると、内視鏡的治療、手術療法、抗がん化学療法(抗がん剤治療)の3種類あります。

内視鏡的治療

リンパ節転移の可能性が極めて低く、病変が一括切除できる大きさと部位にある場合には、原則として内視鏡的治療が選択されます。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

輪状のワイヤー(スネア)を用いて、高周波電流で病変を切除する方法です。病変の下の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸などを注入し、病変を浮かせた後、スネアで囲んで縛り、高周波電流で切除します。
病変のサイズが1cmを超えると、一度に取り除くことが難しくなし、残存するリスクが高くなるため、主に1cm未満の病変の切除に用いられています。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

近年、早期胃がんの内視鏡治療の主流となっている治療方法です。
従来の内視鏡的粘膜切除術(EMR)では切除が難しかった大きな病変や線維化(瘢痕)を伴う病変も、より確実に切除できるようになりました。

ESDの具体的な方法を以下に示します。

  1. マーキング:精密な内視鏡検査を行い、胃がんの範囲をしっかりと見極め、病変がしっかり切除できる範囲でマーキングします。
  2. 局注:生理的食塩水やヒアルロン酸などを粘膜下層という層に注入して、病変を浮かせます。
  3. 粘膜切開:マーキングの外側の粘膜を電気メスで切開していきます。
  4. 粘膜下層剥離:局注によって膨隆した粘膜下層を電気メスで剥離して病変を一括切除します。

手術療法

胃がんに対する外科手術は、原発巣を切除する胃切除が基本となり、同時に胃周囲のリンパ節を摘出するリンパ節郭清が一般的に行われます。
リンパ節郭清は、潜在的な転移の可能性がある周囲リンパ節を摘出し、手術中肉眼では視認できない微細なリンパへの転移まで処置の対象となります。
胃がんの外科手術も、特に腹腔鏡手術の分野で進歩が目覚ましく、従来の開腹手術に比べて、身体への負担が少なく、術後の回復が早くなっています。

胃がんの手術方法には、胃をすべて切除する「胃全摘術」、胃の出口側(幽門部)約2/3程度を切除する「幽門側胃切除術」、そして胃入口側を切除する「噴門側胃切除術」があります。手術後、摘出された胃とその周囲のリンパ節は、病理学的検査(顕微鏡検査)によって詳しく調べられます。この検査の結果から最終的な診断が確定されます。

抗がん化学療法(抗がん剤治療)

胃がんの抗がん剤治療は、がんの進行度や患者様の状態に応じて選択されます。
治療は、手術の前後に行われる「術前・術後補助化学療法」と、「進行・再発胃がんに対する化学療法」に大別されます。

術前補助化学療法は手術前にがんを小さくして、切除しやすくする目的で行われます。対して、術後補助化学療法は手術後の再発予防のために実施されます。

進行・再発胃がんに対する化学療法は、主に手術の適応とならない患者様や胃がんが再発した患者様に対して行われます。近年、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤といった新たな薬剤が次々と開発され、胃がんの抗がん化学療法は大きく進歩しています。

 

胃がん治療で重要視されるピロリ菌除菌治療

胃がんの発症には多くの場合、ピロリ菌感染が関係しています。そのため。胃がんと診断された際には、胃がんに対する治療のみならず、ピロリ菌の除菌治療が行われることも多いです。
ただし、除菌に成功しても胃がんの再発リスクがなくなる訳ではありません。そのため、治療後は胃カメラによる定期的な経過観察が推奨されています。