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過敏性腸症候群

過敏性腸症候群(IBS)とは

腹痛と便通異常(便秘、下痢、もしくは便秘と下痢を繰り返す)が関連しあいながら慢性的に続くものの、内視鏡検査や血液検査では明らかな異常を認めないという概念の症候群です。
腸に分布する神経の知覚過敏、腸内細菌のバランス異常、心理社会的ストレスなどが関与しているとされています。現代社会のストレス病とも言われています。
症状が重篤な疾患である大腸がんや潰瘍性大腸炎などを区別がつきにくいこともありますので、必要に応じて大腸カメラ検査などを行い、肉眼で分かる病気がないということを確認することが重要です。

過敏性腸症候群による症状とタイプについて

症状の出方によって、下痢型、便秘型、下痢と便秘を交互に繰り返す混合型、分類不能型の4タイプに分けられます。ただし、この分類は固定的なものではなく、相互に移行することもよくあります。

下痢型

突発的な腹痛や下痢・軟便が慢性的に続く病型です。突発的な下痢が特徴ですが、排便後に症状が緩和されることが多いです。
ストレスや緊張がかかると症状が悪化することが多く、水様便や泥状便を頻繁に繰り返すことがあります。また、通勤・通学時や試験前・会議前などトイレに行きづらい状況で発症しやすいことも知られています。 日常生活に支障を来すことも多く、悩まれている方が多い病型です。

便秘型

腹痛や便秘が慢性的に持続する病型です。硬い便や、ウサギの糞のようなコロコロとした細かな便が出ることが多く、腹痛・腹部膨満感・残便感などの症状が現れます。

混合型

便秘と下痢が交互に起こる病型です。

分類不能型(その他のタイプ)

上記の病型に明確に分類出来ないタイプです。腹部膨満感や腹鳴(お腹が鳴る)、頻繁におならが出る、不規則に便秘や下痢が続く、などといった症状が見られます。

過敏性腸症候群が生じる原因

過敏性腸症候群の原因は完全には解明されていませんが、さまざまな研究が進められ、徐々に病態が解明されてきています。
現在の知見では、腸に分布する神経の知覚過敏、腸内細菌のバランス異常、心理社会的ストレスなどが発症の要因として関与しているとされています。

1. 腸粘膜の炎症

過敏性腸症候群の発症の背景には、腸管粘膜の炎症があるのではないかと考えられています。感染性腸炎などにより腸粘膜に炎症が起こった後に、過敏性腸症候群を発症される方が多く報告されているからです。
特にストレスを感じやすい人は過敏性腸症候群に移行しやすいことが知られており、ストレス感受性も発症に関係していることが示唆されています。

2. 腸内細菌

日本国内の過敏性腸症候群の患者様の便を調べた研究では、Lactobacillus属・Veillobella属というタイプの腸内細菌が増加していることが確認されています。
これらの腸内細菌が産生する酢酸とプロピオン酸が便中で増加し、症状の悪化に関与していることが報告されています。こうした知見からも、腸内細菌のバランス異常が過敏性腸症候群に関連している可能性があると考えられています。

3. 遺伝と環境

過敏性腸症候群が単一の遺伝子変異で起こっている可能性は低いと考えられていますが、ストレスを感じやすい遺伝要因と環境要因が発症に影響している可能性が示唆されています。

4. 脳腸相関

脳と胃腸は密接に関連しており、この関連を脳腸相関とよびます。過敏性腸症候群は、この脳腸相関と深く関係していると考えられます。
「様々な心理社会的ストレスで症状が悪化する」という過敏性腸症候群でよく認められることはこの関係から説明されます。
逆に腸から脳へ向かう関係も重要で、「胃腸への刺激に対する内蔵知覚が過敏である」ということも過敏性腸症候群の症状に関係していると考えられています。

過敏性腸症候群の診断

問診では、症状について詳しくお伺いします。具体的には、症状が現れた時期、症状の変化、症状が現れるきっかけ、便の状態、排便の頻度をはじめ、特に気になる症状、過去の病歴、服用中の薬、食生活、生活習慣、ライフスタイルなどをお聞きします。
下痢・便秘・腹痛・腹部膨満感などの症状は、過敏性腸症候群以外のさまざまな消化器疾患によって引き起こされている可能性があります。そのため、診察時に必要と判断された方には、大腸カメラ検査や血液検査などをご提案させて頂くことがあります。

診断基準:RomeIV基準

大腸カメラ検査や血液検査では明らかな異常を認めない場合、過敏性腸症候群の国際的診断基準であるRomeIV基準を用いて診断を行います。

繰り返す腹痛が、最近3か月の中で平均して1週間につき少なくとも1日以上を占め、
その腹痛が

  • 排便に関連する(排便前に痛む、排便すると落ち着く)
  • 排便回数の変化に関連する
  • 便性状の変化に関連する

上記の3つの便通異常のうち2つ以上を伴う場合、診断が確定します。

過敏性腸症候群の治療方法

治療は生活習慣の見直しや薬物療法が行われます。そうした治療の効果の効果が乏しい場合には心理療法・心身医学的治療が選択されることもあります。

適切な薬物療法により、日常生活に支障をきたす症状や悩みを和らげます。さらに、改善に繋がる生活習慣について、具体的でかつ分かりやすいアドバイスを提供します。
当院では、患者様のライフスタイルやお悩みに考慮し、最適な治療方針を相談しながら立てておりますので、些細なことでもお気軽にお問い合わせください。

生活習慣の見直し

食事の内容や食習慣を見直すことで、腸の機能を整えやすくなることがあります。また、便秘や下痢の改善にも期待できます。3食をできる限り決まった時間に摂取し、バランス良く食べることを意識してください。便秘だけでなく下痢の症状も伴っている場合も、食物繊維の摂取が重要です。加えて、水分をしっかり摂取してください。下痢が起こりやすい場合は、冷たい飲み物が刺激となりますので、温かい飲み物または常温のものを選ぶようにしましょう。刺激の強い食べ物や飲酒、喫煙は避けてください。 日常では、ストレッチやウォーキング(早歩き程度)といった軽い運動を行い、十分な睡眠と休息を取るよう心掛けましょう。リラックスできる時間を確保し、趣味などでストレスを発散しましょう。そして、できるだけ毎日、浴槽にゆっくりつかる入浴を心がけましょう。

薬物療法

症状やお悩みを考慮しながら、最適な薬を処方いたします。なお、薬の効果の現れ方は個人差があり、体質によって効き目が変わる可能性もあります。そのため、再診時には症状の推移をお伺いしてから、必要に応じて処方内容を調整いたします。
近年では、新しい作用機序を持つ薬剤が開発しており、治療の選択肢も広がってきています。