脂肪肝とは
脂肪肝は肝臓に脂肪が蓄積することで発症する疾患ですが、近年、生活様式や食事の欧米化に伴い、本邦でも増加傾向にあります。健康な肝臓には、通常ほとんど脂肪は含まれていません。
肝臓に蓄積される脂肪の大部分は中性脂肪です。摂取した脂肪や炭水化物は肝臓で中性脂肪に変換されますが、その合成量が過剰になると肝臓に蓄積し、脂肪肝の原因となります。
かつて脂肪肝は、深刻な疾患とは考えられていませんでしたが、近年では肝臓の炎症や線維化が強く起こるタイプの脂肪肝も確認されており、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)と呼ばれます。MASHは特に肝臓へのダメージが大きく、肝硬変や肝細胞がんといった重篤な疾患のリスクになるため注意が必要です。
脂肪肝が生じる原因
脂肪肝の主な原因は、生活習慣や代謝異常に関連しています。
過剰な飲酒がなく、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった、いわゆるメタボリック症候群を伴う場合には、代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASLD)と呼ばれます。MASLDは生活習慣病の一つのあらわれと考えられ、身体全体の代謝異常を反映しています。
一方、過剰な飲酒によって脂肪肝が起こることもあり、アルコール関連肝疾患と呼ばれます。
また、極端なダイエットによって飢餓状態に陥ると、脂肪肝を引き起こすこともあります。
脂肪肝と遺伝の関係性について
肝臓に脂肪が溜まりやすい体質の要因は、遺伝子にもあると考えられています。特に肝臓の脂質代謝に関与するPNPLA3遺伝子に変異が見られる方(日本人全体の約20%)は、肥満でなくとも脂肪肝や腎機能障害の発症リスクが高いことが明らかになっています。
脂肪肝による症状
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、自覚症状があらわれにくい臓器として知られています。脂肪肝についても同様で、自覚症状はほぼありません。そのため、検診や他の目的で行われた腹部エコー検査で偶然見つかったり、あるいは肝障害を契機として指摘されることが多いです。
脂肪肝を放置するリスクについて
過剰な飲酒を伴わない脂肪肝(MASLD)は、生活習慣病の一つのあらわれと考えられ、全身の代謝異常を反映していると考えられます。
いわゆるメタボリック症候群との関連も濃厚で、将来的な狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などのリスクも懸念されるため、早めに生活習慣を整えてリスクを低減することが重要と考えられます。
また、一部の方(20-30%)で炎症や線維化が強く起こり肝硬変や肝細胞がんを引き起こすMASHというタイプの脂肪肝に移行する方がいらっしゃいます。特に肝障害が強い場合などにはMASHの可能性も疑われますので、十分な注意と早急な対応が必要です。
脂肪肝の診断
脂肪肝の診断には腹部超音波検査が非常に有用です。通常の腹部超音波検査では、肝臓と腎臓のコントラストや、深部のエコーの衰退から脂肪肝の程度を判断しますが、視覚的な印象に頼る部分もあり、客観性に欠ける側面があります。
しかし近年、超音波の減衰を測定する「減衰法」を用いることで、脂肪肝の程度を数値化できるようになりました。この方法により、従来よりも客観的で精度の高い脂肪肝診断が可能となっています。
当院では、「減衰法」を行うことができる腹部エコー装置を導入しており、脂肪肝の程度が数字で確認できます。経時的な変化も客観的に把握できるため、治療効果の評価にも有用です。
脂肪肝の改善・治療方法
メタボリックシンドロームの対策と肝障害の予防が主な治療法となります。
肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病を改善させることが重要ですので、食事療法や運動療法などを通して、きちんと見直していきましょう。
食事療法について
栄養バランスの良い食事
ご飯やパンなどの主食や、肉、魚、卵、大豆製品、野菜や海藻などの副食を、1日3食規則正しく摂取しましょう。
また、不飽和脂肪酸を多く含む青魚(サバ、ブリ、サワラなど)やビタミンEを多く含む緑黄色野菜(青菜、ニラ、ブロッコリーなど)を積極的に摂取しましょう。
揚げるよりも茹でる、蒸す調理法を選びましょう
同じ食品であっても、調理法によってエネルギー量は異なります。茹でたり蒸したりした食品は、揚げた食品よりも脂質量が少なくなります。
網やオーブンで焼いたり、グリルしたりする調理方法も脂肪が減少するため、摂取カロリーの量も少なくなります。
脂質が多く含まれる食品は控えましょう
動物性油脂(ラード、バターなど)は、飽和脂肪酸を多く含まれているため控えましょう。脂肪分の多い肉や洋菓子(ケーキなど)の過剰摂取にも気をつけましょう。
主食のみを摂る食事は避けましょう
ご飯やパン、麺などを食べすぎると、余分なエネルギーが中性脂肪として肝臓に蓄積されます。具が沢山入った料理を選んだり、副菜としてサラダを1品足したりするなど、工夫をしてみましょう。
飲酒は避けましょう
肝臓に障害を抱える方は、肝機能が低下しているため、基本的には禁酒しましょう。また、アルコールは中性脂肪の生成を促進し、脂肪肝を進行させます。
そのため、飲酒量や飲酒期間が長いほど、脂肪肝やアルコール性肝炎などの肝臓の病気を引き起こしやすくなります。
日本酒換算で、毎日約7合を15年以上継続的に飲むと、約50%の方が肝硬変を発症すると言われています。
お菓子や清涼飲料水を摂る量を控えましょう
お菓子の摂取量や回数を減らしましょう。買い置きをせず、食べる分だけお皿に盛り付け、残りは目につかない場所に保管するなどの工夫を試してみましょう。
清涼飲料や缶コーヒーには、脂肪肝の進行を助長する果糖が多く含まれています。また、果物も過剰に摂取しないようにするなど、常に食事や飲み物に気をつけましょう。
適度な運動と減量について
脂肪肝を改善するには、体重を減らすことが肝要です。ただ、脂肪肝を改善するには、7%以上の減量が必要であり、70kgの体重なら約5kgの減量が求められますが、これを実践するのは容易ではありません。
また、運動の習慣化によって、肝機能障害や脂肪肝を改善することも可能です。肥満と脂肪肝を抱える方が、週3〜4回、30〜60分の有酸素運動を4〜12週間継続すると、体重が減少しなくても肝臓の脂肪化が改善されることが証明されています。
さらに、筋力トレーニングとしても知られる適度な運動は、有酸素運動よりも消費エネルギーが少ないのですが、肝臓脂肪の分解を促進します。
運動は他の生活習慣病の予防や改善にも有効とされているので、積極的に取り組んでください。
薬物療法について
脂肪肝の改善効果が認められている薬も存在します。糖尿病治療に使用されるピオグリタゾン、SGLT2阻害薬、GLP1作動薬は、肝機能や肝組織の線維化を改善させるのに有効だと言われています。
高血圧の場合、肝機能改善にはACE阻害薬とARBが有効です。脂質異常症においては、悪玉コレステロールを降下させるスタチン系薬剤やフィブラート系薬剤による、脂肪肝改善の可能性が報告されています。
さらに、ビタミンE製剤も脂肪肝の改善に期待できると報告されています。このように、様々な治療法が存在しますが、脂肪肝そのものに対して保険適用される治療薬は、現在のところ存在していません。