大腸ポリープとは
大腸ポリープは、大腸粘膜から発生し、腸の内側に隆起する病変です。自覚症状はほとんどなく、便潜血検査が陽性であったことを契機に受けた大腸カメラで発見されたり、他の目的で大腸カメラを行った際に偶然見つかることが多くあります。
大腸ポリープにはさまざまな種類がありますが、特に「腺腫」や「SSL」とよばれるタイプのポリープは、時間の経過とともに増大し、がん化リスクが上昇することが知られています。大腸がんの多くは、こうしたがん化リスクのあるポリープが時間経過とともにがん化し、発症することが知られています。すべての腺腫やSSLががん化するわけではありませんが、内視鏡でポリープを切除することで、将来的な大腸がんによる死亡リスクを低減できることが実証されています。
ポリープの治療に関しては、「ある程度サイズが大きなもののみを切除する」という考え方もありますが、がん化リスクのあるポリープは小さなものでもすべて治療し、ポリープのない状態(「クリーンコロン」とよばれます)を維持することが望ましいとする考え方もあります。
一方、がん化のリスクのほとんどないポリープもあり、大腸カメラではそうした区別ができることが多いです。
大腸ポリープはがん化するリスクを伴います
がん化リスクのある代表的な大腸ポリープである「腺腫」は大きさが増大するにつれて、がん化リスクが高くなることが知られています。ポリープに大腸がんが含まれている割合は、ポリープが5mm以下では0.2-2.6%と低率ですが、6-10mmでは3.3-18.6%、11-15mmでは16.0-43.8%と5mmをこえると急激にがんが含まれている可能性が高くなります。
また、ポリープの形態も重要で、5mm以下でも陥凹した形状のポリープでは大腸がんが含まれていることも少なくありません。
一般的に、大腸ポリープは時間をかけて増大すると考えられているため、がん化リスクが高まる前に切除するのが大腸がん予防に有効とされています。
当院では小さなポリープであっても、腺腫やSSA/Pの可能性が考えられる場合には、発見した時点での切除をして、ポリープのない「クリーンコロン」を保っていくことを勧めております。
大腸ポリープが生じる原因と発症リスクが高い方
- 40歳以上の方
- 大腸がんの家族歴がある方
- アルコールを過剰摂取している方、喫煙している方
- 高脂質、高タンパク(特に赤身肉や加工肉)の食事が多い方、肥満の方
- 食物繊維の摂取が少ない方
大腸ポリープ・大腸がんと食生活の関連性
食生活は大腸ポリープや大腸がんの発症に影響を与えるとされています。特に、脂肪が多くて食物繊維が少ない食事や、赤身肉や加工肉の過剰摂取はリスクを高める要因とされています。
一方で、野菜・果物・食物繊維の摂取は、大腸がんの発症を抑制する可能性があると示唆されています。
大腸ポリープ・大腸がんと遺伝による影響
大腸ポリープや大腸がんの発生には、遺伝的要因の関与が少なからずあると考えられています。大腸がんの家族歴は、発症リスクに影響を与える重要な要因のひとつです。特に、近親者(両親・兄弟姉妹)に大腸がんの既往のある方がいる場合、50歳未満で大腸がんを発症した血縁の方がいる場合には注意が必要です。
また、「遺伝性大腸がん」とよばれる、遺伝的要因によって発症する大腸がんも知られており、全大腸がんの約5%程度を占めています。代表的な疾患として「家族性大腸腺腫症」や「リンチ症候群」が挙げられます。
遺伝性大腸がんの特徴としては、以下の点が知られています。
- 若年で発症しやすい(40歳以前に診断されることが多い)
- 大腸がんが繰り返し発生しやすい(多発性がんのリスクがある)
- 大腸以外の臓器にもがんができやすい
特に血縁者に大腸がんや大腸ポリープを発症した方がいらっしゃる場合、早い段階で大腸カメラ検査を受け、大腸がんや大腸ポリープがないかチェックを受けて頂くことをおすすめ致します。
生活習慣による大腸ポリープ・大腸がんの予防方法
食事・アルコール摂取・喫煙などの生活習慣は、大腸ポリープや大腸がんの発症に影響を与えることが明らかになっています。特に、脂肪が多く食物繊維が少ない食事、赤身肉・加工肉の過剰摂取、肥満、運動不足は、大腸ポリープや大腸がんの発症リスクを上昇させることが知られています。また、過度なアルコール摂取や喫煙習慣もリスクを高めます。
こうしたリスク要因を避けることは、発症リスクの低下に有効です。適度な脂肪分の摂取と食物繊維を豊富に含む食事を心がけることが重要です。また赤身肉・加工肉の摂取を控え、禁煙・節酒につとめ、定期的な運動で肥満を解消・予防することは、大腸がん予防だけでなく、多くの生活習慣病予防にもつながります。
また、定期的な大腸カメラ検査を受けることで、大腸がんの早期発見や大腸ポリープ切除による予防がスムーズに行えます。50歳以上になると大腸がんの発症者数が増加しますが、ほとんどの大腸がんは、大腸ポリープが時間をかけて増大し発生することが知られています。また、大腸ポリープのリスクは40歳頃から上昇すると考えられています。
そのため、症状がない場合でも、40歳以上の方には積極的に大腸カメラ検査を推奨しています。さらに、大腸ポリープや大腸がんにかかられた血縁者がいる方など、リスクが高い場合は早めに検査を受けることをおすすめします。
大腸ポリープ切除とは(日帰り手術)
当院では、大腸カメラ検査中に発見した大腸ポリープを、その日に切除する日帰り手術を提供しています。切除の方法は、ポリープの大きさや形状に応じて適切に判断いたします。
過去にポリープ切除を受けた方や、大腸がん・大腸ポリープを発症した血縁者がいらっしゃる場合は、定期的な大腸カメラ検査を受けることで、有効な早期発見や予防が可能となります。適切な検査頻度については、検査結果に応じてご提案させて頂きます。
大腸ポリープの切除にかかる時間
大腸カメラ検査では、まず大腸一番奥の盲腸までスコープを挿入し、引き抜きながら細かく大腸粘膜の状態を観察していきます。
大腸ポリープが見つかった場合には、通常の観察に加え、適宜狭帯域光観察を併用した拡大観察などを行い、まず切除が必要なものか判断します。そうした精査の結果も踏まえて、切除方法を選択します。
検査時間はポリープの有無や、ポリープの数によって左右されますが、大抵の場合はほぼ30分以内に完了します
大腸ポリープ切除の手術
大腸ポリープの切除手術は、ポリープの大きさ・形状・タイプなどに応じて、適切な切除方法を選択します。
切除したポリープは回収し、病理検査を実施して確定診断を行います。ただし、サイズが大きなポリープや、大腸がんの可能性が疑われるポリープなどは、入院での切除が望ましいため、必要に応じて高次医療機関にご紹介いたします。また、ポリープの数が非常に多い場合は、安全のため複数回に分けて治療を行うことがあります。
ポリペクトミー
輪っか状のワイヤー(スネア)を用いて、高周波電流でポリープを切除する方法です。
内視鏡スコープの先端からスネアを出し、ポリープを囲んで締め付け、高周波電流で焼き切ります。電気メスと同様に止血効果がありますが、通電によって周囲の組織が熱を帯び、炎症・出血・穿孔などが起こる恐れがあります。
コールドポリペクトミー
スネアを使用してポリープを囲んで締め付け、物理的に切除する方法です。大型の生検鉗子を用いて摘除することもあります。
ポリペクトミーとは異なり、高周波電流を使用しないため、周囲の組織に熱ダメージを与えず、出血や穿孔などの合併症リスクを軽減できます。
サイズが小さなポリープや、大腸がんの合併がないと思われるポリープなどに適応される切除方法です。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
ポリープの下の粘膜下層に生理食塩水を注入し、ポリープを隆起させます。隆起させたポリープにスネアをかけて囲み、締め付けたうえで高周波電流を通電して切除します。ポリープの下には生理食塩水が注入されているため、通電によるポリープ周囲へのダメージをおさえながら、切除することが可能です。
コールドポリペクトミーより深く切除できるという利点があるので、大腸がんの合併が疑われる場合にはEMRを選択し、確実な切除を期します。
大腸ポリープ切除後の痛みはほとんどありません
大腸粘膜には痛覚がないため、ポリープ切除を行っても、通常は痛みを感じることはありません。ただし、腸管の曲がりが強いところにポリープがある場合などには、内視鏡を安定させるために少し押されるような感覚を覚えることがあるかも知れません。
当院では、日本消化器内視鏡学会の専門医が、すべての大腸カメラ検査とポリープ切除を担当しています。安心してご相談頂ければと存じます。
頻度は高くありませんが、結腸憩室炎や腸炎などの他の疾患が同時期に発症することで検査後に痛みが出ることがあります。また、前処置として服用頂いた腸管洗浄剤の刺激や腸内フローラ(細菌叢)の変化などによって、検査後に痛みが出る可能性があります。
術後の痛みが重い場合や持続する場合は、当院へお問い合わせください。
大腸ポリープを切除した後における注意事項
大腸ポリープ切除は、手術に分類される処置です。術後約1週間は、いくつかの制限を守って頂くことで、合併症のリスクを軽減できます。
手術後に注意事項をご説明しますが、ご不明な点がありましたが遠慮なくお尋ね下さい。
大腸ポリープ切除後の一般的な注意点は以下のとおりです。
- 切除当日から翌日までシャワー程度にして頂き、湯船につかるのは翌々日からにしてください。
- 術後1週間は激しい運動を避けてください。腹圧が上がるような(腹筋を使うような)姿勢や動作などは控えてください。
- 術後1週間は、長時間の自動車やバイク、自転車の運転を控えてください。
- 術後1週間は、長距離移動を伴う出張・旅行などを避けてください。特に飛行機に関しては、気圧の変化が大きく、術後の出血や遅発性穿孔のリスクを高める恐れがあるため、乗ることを避けてください。
- 術後1週間(特に切除後2〜3日)は出血のリスクがあります。
大腸ポリープを切除した後での食事
切除後から1週間程度は、消化しやすく胃腸への負担が軽減される食事を心がけてください。
揚げ物やラーメン、刺激の強い香辛料、食物繊維が多い食品などはお控え下さい。また、飲酒は術後の出血リスクを高める可能性があるため、手術当日は飲酒をお控え下さい。
出血が生じた場合
トイレットペーパーに少量の血液が便に付着している程度であれば問題ないことが多いですが、便器が真っ赤になるような出血があった際には、速やかに当院へご連絡ください。