慢性腎臓病(CKD)
腎機能が低下したり、尿にタンパクが出る状態が3ヶ月以上続く病気です。
透析が必要となる方をなるべく少なくするために、そして脳梗塞や脳出血など脳血管疾患や、狭心症、心筋梗塞といった心血管系疾患の発症リスクを抑えるために、早期に腎障害を拾い上げ、腎機能の回復が見込める段階から適切な治療を行うことを目的として、この概念が導入されました。
症状が特に目立たず、通常、尿中の蛋白質や腎機能を反映する血液検査の数値によって診断されることが多いです。
診断方法
次の①、②のいずれか、または両方が3ヶ月以上続いている場合、腎障害と診断されます。
①腎臓の問題が明らかになった場合
- 蛋白尿やアルブミン尿
- 蛋白尿以外の異常、病理、画像診断、検査(尿検査・血液検査など)によって、腎障害が明らかになった場合
②糸球体濾過量
糸球体濾過量(GFR :Glomerular Filtration Rate)が1.73m²あたりの面積で60mL/min未満だった場合。
慢性腎臓病の重症度(ステージ) における判断基準
腎臓の働きを示す指標として、血清クレアチニン濃度をもとに計算される「推定GFR(eGFR)」が用いられます。GFRは、糸球体が1分間にどれくらいの血液を濾過して尿を生成できるかを示す数値です。
健康な方のGFRは100mL/分/1.73㎡前後ですが、蛋白尿が認められない場合でも、60mL/分/1.73㎡未満が持続すればCKDと診断されます。さらにGFRが低下すると、CKDの病期が進行し、心血管疾患のリスクが高まります。末期腎不全(15mL/分/1.73㎡)に至ると、透析を検討する必要があります。
また、GFRが90mL/分/1.73㎡以上であっても、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙などのCKDリスク因子がある場合はハイリスク群とされ、注意が必要です。
慢性腎臓病の進行と予後
慢性腎臓病の予後は、腎機能低下の程度や合併症の有無によって異なります。
一般的に蛋白尿・アルブミン尿が増加するほど、GFRが低下するほど心血管疾患のリスク、死亡率が高くなります。また、慢性腎臓病は進行していく疾患であり、適切な対応を行わないと、末期腎不全に至る可能性があります。
軽度-中等度 (GFR 60mL/分/1.73m2以上など)
適切な血圧管理により、進行を抑えることが可能。
生活習慣の改善(肥満の是正・禁煙・塩分制限・タンパク質を取りすぎないなど)で腎機能維持を期待できる。
中等度-高度腎機能低下 (GFR 30-59mL/分/m2など)
慢性腎臓病の進行リスクが高まり、心血管疾患のリスクが増加。
塩分・タンパク質制限、薬物療法が重要。
末期腎不全 (GFR 15mL/分/m2未満など)
透析や腎移植の検討が必要となります。
慢性腎臓病の治療方法
CKDステージが1~3でしたら腎機能がほぼ正常とされます。その場合、できる限り原疾患の治療を適切に行うのが良いとされています。 加えて、規則正しい生活習慣、減塩や蛋白質の摂取制限、血圧のコントロールなどが重要です。
生活習慣病
肥満は末期腎不全に至るリスクになるため、体重の是正が重要となります。
以前は腎臓に負担がかかるという理由で安静がすすめられていましたが、近年慢性腎臓病に対する運動療法の効果が明らかとなり、ウォーキングなどの有酸素運動と筋肉トレーニングなどのレジスタンス運動を組み合わせて行うことが推奨されています。
また、心血管疾患のリスクを高める喫煙を避け、お酒は控えめに楽しむことが推奨されています。
食習慣
タンパク質制限
過剰なタンパク質は腎機能を低下させるため、慢性腎臓病のステージに応じたタンパク質制限が必要となることがあります。
エネルギー摂取量
目標とする体重とともに摂取するタンパク質の量が適正になるエネルギー摂取量が設定されます。
塩分制限
塩分を過剰摂取すると脳卒中や心血管疾患、腎機能障害、末期腎不全へのリスクが高まります。特に浮腫や高血圧が見られる場合は、1日に6g未満の食塩制限が推奨されています。ただし、特にご高齢の方では、過度な減塩によって食事量が減ってしまい低栄養を招く可能性があり注意が必要です。
カリウム・リン制限
腎機能が悪化すると高カリウム血症や高リン血症を認めることがあります。 いずれも様々なリスクになりますので、食事への留意が必要となることがあります。
血圧
血圧に留意しておくことは非常に重要ですが、降圧目標は糖尿病合併の有無、蛋白尿の有無、年齢などで異なっています。
慢性腎臓病がある場合の降圧目標値
75歳未満 | 75歳以上 | ||
糖尿病なし | 蛋白尿なし | 140/90mmHg未満 | 150/90mmHg未満 |
蛋白尿あり | 130/80mmHg未満 | 1150/90mmHg未満 | |
糖尿病あり | 130/80mmHg未満 | 1150/90mmHg未満 |
血圧コントロールは生活習慣の改善・塩分制限・降圧薬で行われます。降圧薬の種類は多岐にわたりますが、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)やカルシウム拮抗薬などがよく使われます。
併存する疾患の治療
脂質異常症が合併している場合にはスタチン系薬剤やエゼチミブという薬がよく用いられます。
高尿酸血症は慢性腎臓病の発症・悪化のリスク因子となるため、尿酸生成を抑制する薬が用いられます。腎機能に配慮して、フェブキソスタットやトピロキソスタットという薬が使用されることが多くなっています。
糖尿病を合併している場合には、しっかりとした血糖コントロールが重要となります。
心血管系疾患の発生予防効果があるとされるSGLT2阻害剤という薬剤が用いられることが増えています。